小売売上高とは?
小売売上高、または小売売上高指数(RSI)とは、経済全体の健全性を測る基準として機能する経済指標のことです。個人消費の情報をまとめたものであり、この経済指標報告は国によってその構成が異なるものの、小売商品とサービス業の1カ月間の総合的な評価基準となります。
例えば、米国の小売売上高の主な構成要素は自動車産業ですが、米国商務省センサス局の報告書には、自動車産業による潜在的な不規則性(変動性)を排除する目的で、「自動車を除く小売売上高」と「ガソリン・自動車を除く小売売上高」が含まれています。自動車を除外したこれらのカテゴリーは、「コア小売売上高」とも言われます。
以下の経済指標カレンダーでは、「小売売上高」「自動車を除く小売売上高」「ガスと自動車を除く小売売上高」を表しています。
個人消費は経済活動を牽引する重要な指標であるため、このデータを注視することは企業の健全性だけではなく、今後の意思決定(金融・財政)にとっても不可欠です。
例えば、消費が増えれば企業活動が活発化し、その結果、景気は刺激され、海外投資は促進されます。次に、耐久財受注、消費者信頼感、貿易収支、GDP、インフレ率など、その他の重要な経済指標にも影響を与えます。
コア小売売上高の特徴
コア小売売上高とは、小売売上高から自動車部門を除いた数値のことを指します。自動車部門は、新車の発売スケジュールや価格改定、大規模な販売キャンペーンなどにより、売上が大きく変動することが特徴であり、その影響を排除することで、より一般的な消費動向を読み取ることが可能となります。
コア小売売上高は、自動車部門を除く小売業の売上高を指すため、その変動は他の産業よりも小さく安定しています。これにより、消費者の購買行動の傾向や経済の動向をより正確に把握することが可能となります。そのため、消費者の行動を継続的に把握し、それが全体的な経済状況にどのように影響するかを理解するのに適した経済指標と言えます。
アメリカの小売売上高の構成要素
米国の小売売上高指標は、以下の多様な小売業種で構成されています(出所:米国センサス局)。
- 自動車及び同部品
- 家具
- 家電
- 建材・園芸用品
- 食品・飲料
- ヘルスケア
- ガソリン
- 衣料品
- スポーツ・趣味用品・書籍
- 総合小売
- その他小売
- オンライン販売
- 飲食店
上記カテゴリーは、米国センサス局によって事前に定義された標本抽出枠に応じて評価されているため、定期的に変わることがあります。
小売売上高をFX取引で参考にするメリット・デメリット
次に、小売売上高をFX取引で参考にする際のメリット・デメリットを解説します。
小売売上高のメリット
小売売上高のメリットは、以下のとおりです。
- タイムリーなデータとして利用できる
- 季節調整される
小売売上高とは、小売業者が一定期間内に販売して得た総額を意味します。そのため、経済全体の消費状況を反映した重要な指標となります。この小売売上高のデータは、各月の末日までの売上高を集計し、その月の末から約2週間後に発表されます。例えば、1月の売上高は2月中旬に発表されることとなります。
また、この初回発表データは、さらなる詳細な集計や確認作業を経て、約2ヶ月後に修正データとして更新されます。初回発表はタイムリーな経済状況を知るためのもので、修正データはより正確な情報を得るためのものと言えます。これらのデータを適切に利用することで、現在の消費動向や経済状況を理解することに役立つでしょう。
また、小売売上高のデータは季節要因による影響を排除した「季節調整値」が提供されます。季節調整とは、1年間の中で特定の時期に現れる労働力、生産、販売などの変動を取り除く統計的手法です。これにより、季節要因による影響を取り除き、本来の経済活動の変動を明確に捉えやすくなります。
例えば、12月のクリスマス商戦や8月のお盆休みなどは、小売業の売上に大きな影響を与えます。しかし、これらは特定の季節限定の影響であり、全体の経済動向を読み解く上では不必要と言える場合があります。そこで、季節調整されたデータを用いることで、季節に依存しない本質的な経済動向を理解することが可能になります。
小売売上高のデメリット
小売売上高のデメリットは、以下のとおりです。
- 大きな修正が実施されると参考にできる数字が少なくなる可能性がある
- 変動が大きい場合はトレンド判断が難しい
小売売上高の統計は、範囲が広いため修正が大きい場合があります。全国の小売店の売上を集計するため、発表初期の数字が後の修正で大幅に変動することがあるからです。FXトレーダーとしては参考にできる数字が少なくなることに注意が必要です。
また、小売売上高は月ごとに発表されるため、そのデータを基に市場の動きを分析できますが、数値は月ごとに大きく変動することがあります。特に祝日や天候などの外的要因、または新商品のリリースなどの内的要因により売上が左右される場合もあるでしょう。
このような毎月の大きな変動が起こると、その数値を基にしたトレンドの見極めが難しくなることがあります。例えば、ある月の売上が非常によいと、次の月以降も同様の売上を見込んでしまうこともあるはずです。しかし、実際には前月の売上上昇が一過性のものであった場合、予想が外れる結果となります。月ごとの売上変動を見極める際は、その背景を理解し、適切な判断をすることが重要です。
小売売上高とインフレの関係性
小売売上高が算出する数値はインフレ率に応じた調整がされていないため、小売売上高のプラスをそのままポジティブな要因として捉えないほうがよいでしょう。また、インフレ調整後の数値がプラスであっても減少する場合があります。インフレ率が高ければ、1ドルあたりの消費は購買力の観点からは減少します。そのため、小売売上高を参考にする際にインフレを考慮することは、経済を包括的に理解するために重要です。
アメリカの小売売上高がFXに及ぼす影響とは?
米国におけるGDPの約7割を占めるのは個人消費であるため、小売売上高は重要な指標です。米国経済全体の健全性を示し、個人消費の動向は大きな影響力を持つと言えます。
個人消費の伸びが良好だと、企業の売上高や利益も伸び、株価が上昇する可能性があります。資本市場全体の好感触を生み、ドルの価値を高める要因となります。その結果、FX市場においてもドル高となると予想されます。
一方で、個人消費が鈍化すれば、企業の売上高や利益が下降し、株価も下落します。これはドルの価値を下げる要因となり、FX市場においてもドル安となると予想されます。
このように、小売売上高は米国経済のバロメーターであり、間接的にFX市場に影響を及ぼすため、動向を把握しなければなりません。
特に、前月比の増加率が市場の予想を上回った場合、その数値は経済が活発になっていると解釈されます。消費者がお金を使っている証拠となり、米国経済全体が好調であると予測されます。その結果、ドルに対する投資家の信頼感が増し、ドルが買われやすくなる傾向にあります。
反対に、米国の小売売上高が市場予想を下回る、あるいは予想外に減少すると、そのニュースは経済全体の景気後退と捉えられます。その結果、投資家はドルに対する信頼を失い、ドル売りに動きやすくなります。
小売売上高を利用したFXの取引方法
小売売上高を使った取引は決して簡単ではありませんが、小売売上高指数と他の市場との間には歴史的に注目すべき関係性があります。
まず株式市場では、小売売上高は従来、株式と正の相関関係を示しています。なぜなら、売上高の増加は企業収益の増加につながるからです。下図は、米国株式市場(SPX)が小売売上高データの変動とほぼ連動しており、SPDR小売ETF(オレンジ)によって測定される小売セクターとは、より高い平行性があると予想されることを示しています。
米国小売売上高、米国500種株価指数(S&P500、SPX)、SPDR小売ETF(2017~2022年)
出所:Refinitiv
投資家が自動車業界の動向を追跡する際、米国の小売売上高の大部分が自動車販売(指数の約20%)で構成されていることを考慮しつつ、地域の自動車メーカーの現状と短期的見通しについては自動車のサブカテゴリーからヒントを得ます。下図は、小売売上高データと業界大手2社であるフォード・モーターとゼネラル・モーターズを示しており、それぞれの間に正の相関があることがわかります。さらに、この2つの変数が調和的な関係にあることを示しています。同じロジックを他のサブカテゴリーにも広げると、対応する分野の株価分析にも活用できます。
米国小売売上高、フォード・モーター株価、ゼネラル・モーターズ株価の推移(2012~2022年)
出所:Refinitiv
小売売上高とFX市場の関係性
小売売上高の改善は通常、問題になっている自国通貨を好転させると同時に、その発表前後には市場のボラティリティを高めます。例えば米国において、小売売上高はFRB(米連邦準備制度理事会)の意思決定プロセスに影響を与えます。また、各国の中央銀行にも影響を及ぼす可能性があります。
一方で、小売売上高が鈍化している場合、経済見通しは暗いとみなされ、FRBは経済活性化のために金利の引き下げによる金融政策を緩和する可能性があります。反対に小売売上高が伸びている場合には、逆の政策が取られるでしょう。
下図は米国の小売売上高と米ドル指数(DXY)の6カ月間の推移で、通貨と小売売上高に正の関係があることが理解できます。ただし、金融市場の分析全般に言えることですが、評価の過程では考慮しなければならない他の要因も常に存在することを覚えておきましょう。
米国小売売上高と米ドル指数(DXY)の推移(2022年)
出所:Refinitiv
小売売上高はFX取引において重要な経済指標である
小売売上高は、テクニカル分析、ファンダメンタルズ分析、またはその2つの組み合わせなど、トレードスタイルや戦略に関係なく、トレーダーに役立つ経済指標と言えます。小売売上高のデータを理解すれば、金融市場や特定の値動きの背後にある経済への理解が深まるでしょう。小売売上高は、株式、FX、商品、債券など、すべての資産クラスに取り入れられるため、市場全般のマクロ経済指標としても最適です。
下記をクリックすると、マクロ経済のファンダメンタルズに関する他の学習コンテンツをご覧いただけます。
トレードの基礎知識
マクロ経済ファンダメンタルズ
推薦者: DailyFXJapan
トレードのスキルアップに役立つ、DailyFXの学習コンテンツや無料トレードガイドをぜひご利用ください。
トレードに役立つ最新情報をX(旧Twitter)でも配信中。@DailyFXJapanをフォロー!