マーケットのセンチメントは日々、「リスクオン」と「リスクオフ」の間を行ったり来たりしているように見えます。リスクセンチメントを読み取ることは、米国株式市場の方向性を追うことと同じくらい簡単です。
毎日新しい噂が生まれては、それを受けて株式市場は変動しています。この上下を繰り返す動きは、トレーダーの感情を揺さぶります。
相場の基調を判断する方法の一つに、投資家のリスク選好度によるものがあります。相場の心理状況を把握することの利点は、マーケットのセンチメントの方向に自分の取引を合わせられることです。
リスクオン・リスクオフ(リスクオンムード・リスクオフムード)とは?株やFXはどうなる?
株式市場全体が大幅に上昇するのは、リスクが「オン」になっていることの表れです。リスクオン(リスクオンムード)とは、投資家が景気の先行きに好感を抱いている相場の心理状況です。そのため、投資家は資金を株式市場や高利回りの金融商品に投じます。これにより、通常、株式相場や最近ではオーストラリアドル(AUD)やニュージーランドドル(NZD)といった高金利通貨の価格が上昇します。
その一方で、利回りの低い商品は相対的に利益が少ないか、場合によっては価格が下落する傾向があります。低金利通貨は、高金利通貨を買う資金にするために売られがちです。このように低金利通貨を売り、その一方で、同時に高金利通貨を買うことをキャリートレードといいます。つまり、リスクオンのセンチメントは株式相場を上昇させ、高金利通貨の需要を高める効果があります。結果的に、キャリートレードは好成績を収めやすい戦略です(キャリートレード戦略の詳細については、関連記事もご覧ください)。
(チャート作成:ジェレミー・ワグナー)
豪ドルは従来、高金利通貨であるため、リスクセンチメントが「オン」(上のチャートで緑色の部分)の時には豪ドル/米ドルの為替相場は上昇しやすく、キャリートレード戦略がうまく機能しました。しかし、リスクセンチメントが「オフ」(ピンク色の部分)になった時の豪ドル/米ドル相場は下落しがちで、キャリートレード戦略は一貫した成果を挙げられていません。
リスクオフ(リスクオフムード)とは、投資家が景気の先行きを警戒している相場の心理状況です。したがって、投資家は資金を株式市場や高利回りの金融商品から、比較的安全とされる米国債などに移します。
例えば、株式相場が下落した場合、メディアはリスクオフと決め付けます。こうなると投資家やトレーダーはリスクを嫌い、危険性やハイリスクな商品を避けようと考えます。そのため、投資家は保有している株を売却して株式市場から資金を引き上げ、高金利通貨のようなハイリスクな商品を売ります。リスクオフ相場では、キャリートレードは機能しません。トレーダーは日々のスワップポイントで利益を得ていますが、為替相場の動きが不利なためにスワップポイントが帳消しになってしまうからです。
リスクオフの状況では、米ドル(USD)や日本円(JPY)などの避難通貨を買うのが得策です(2011年8月まではスイスフラン(CHF)も避難通貨とみなされていましたが、スイス国立銀行(中央銀行)による介入はフラン買いを抑制しようとしています)。
米国株式市場のようなリスク資産と豪ドルのような高金利通貨は、レジスタンスラインの水準付近にあります。このことは株式市場と豪ドル/米ドル相場がリスク回避の動きへ戻り、価格が急落することを意味しているかもしれません。
なぜリスクオフで円高に?円が買われる2つの理由
リスクオフで円が買われ、円高になる理由は主に以下の2つです。
- キャリートレードの巻き戻しが起こる
- コンセンサス(共通理解)がある
以下、順番に解説していきます。
キャリートレードの巻き戻しが起こる
リスクオフではキャリートレードの巻き戻しが起こり、円が買われやすくなる傾向があります。
前述した通り、リスクオンではキャリートレードが活発になります。例えば、金利が低い円で資金を調達し、それを高金利通貨や株式などで運用するといった形です。
しかし、景気の見通しが悪くなり、リスクオフのムードが高まると、今後は流れが逆流します。つまり、今まで積極的に高金利通貨や株式などで運用していた投資家が、一旦リスクを抑えるためにそれらの資産を売却し、資金を返済するために円を買うことになるのです。
そのため、外貨売り円買いが大量に起こり、FXは円高方向に動きやすくなります。
コンセンサス(共通理解)がある
「リスクオフの円買い」が投資家の間でコンセンサス(共通理解)になっていることも、リスクオフで円が買われて円高になる理由の一つです。つまり、投資家やヘッジファンド等のアルゴリズムは、リスクオフを連想させるキーワードに反応して円買いをするようになっているということです。
例えば、「北朝鮮のミサイル発射」や「米中の対立」といったニュースが流れると、「リスクオフ=円高」というコンセンサスの下で、反射的に利益を狙った円買いがおこなわれます。何か悪いことが起きると円が買われるという行動パターンがあることを覚えておくと、円高の流れが理解しやすくなるはずです。
なぜリスクオフでドル高に?米ドル買いが起きる2つの理由
リスクオフで米ドルが買われ、ドル高になる理由は主に以下の2つです。
- キャリートレードの巻き戻しが起こる
- 地政学的リスクによる米ドル買い
以下、順番に解説していきます。
キャリートレードの巻き戻しが起こる
円と同じく米ドルもリスクオフではキャリートレードの巻き戻しが起こり、米ドルが買われやすくなる傾向があります。
リスクオンでは、キャリートレードが活発になります。例えば、米ドルで資金を調達し、それを高金利通貨や株式などで運用するといった形です。
しかし、景気の見通しが悪くなり、リスクオフのムードが高まると、今後は流れが逆転します。つまり、今まで積極的に高金利通貨や株式などで運用していた投資家が、一旦リスクを抑えるためにそれらの資産を売却し、資金を返済するために米ドルを買うことになるのです。
そのため、高金利通貨売り米ドル買いが大量に起こり、FXはドル高方向に動きやすくなります。
地政学的リスクによる米ドル買い
地政学的リスクによる米ドル買いとは、地政学的な不安定性が高まると、投資家が米ドルを安全な通貨として求め、その結果、米ドルの価値が上昇する現象です。地政学的なリスクが高まると、米ドルは安全資産と見なされていることから、逃避通貨となります。
例えば、大きな戦争などが起こると、新興国の通貨を売って米ドルを買う動きが活発化します。これは米国が地政学的に安定しており、国際的な取引では米ドルが中心で安心感も高いといった理由からです。
このような要因により、地政学的リスクが高まると、多くの投資家が米ドル資産を保有し、他の通貨を手放す傾向があります。
リスクオフで金(ゴールド)が買われる理由4選
リスクオフ時に金(ゴールド)が買われる理由は、主に以下の4つです。
- 安全資産として有名
- 価値がゼロにならない
- インフレに強い
- 流動性が高い
以下、順番に解説していきます。
安全資産として有名
金は安全資産として有名であり、リスクオフで買われやすい傾向があります。つまり、リスクオフ時には資産の逃避先として金が連想されやすいということです。
例えば、昔から「有事の金」と言われるほど、戦争や災害などに強い資産として知られています。さらに、現物で買えば万が一の場合には持ち運びすることも可能です。
そのため、リスクオフでは金に注目が集まりやすくなります。
価値がゼロにならない
金は、価値がゼロになることがありません。なぜなら、世界中でその価値が認められているからです。
例えば、株式や債券は倒産などにより価値が無くなることがありますが、金は無価値になったことがありません。加えて、金の埋蔵量には限りがあり、希少価値が高いです。
したがって、価値を失わない金は、資産を守るのに適した金融商品だと言えます。
インフレに強い
金はインフレに強いという側面もあります。要するに、インフレ局面では金価格は上昇する傾向があり、価値が減りにくいのです。
例えば、株や不動産もインフレに強い資産と言われますが、景気が悪化すると株や不動産は売られやすくなってしまいます。そのため、インフレに強く、景気の悪化で買われやすい金はリスクオフで選ばれやすいのです。
流動性が高い
流動性が高いことも、金の大きな魅力です。というのも、流動性が高ければ、好きなタイミングで現金化しやすいからです。つまり、金は通貨の代わりのような存在と考えることができます。
金は世界中で人気があることから、大きなマーケットがあり、膨大な量が公正な価格で取引されています。したがって、金はすぐに現金化しやすく、急に現金が必要になっても対応しやすいのです。
リスクオン・リスクオフに関するFAQ
ここでは、リスクオン・リスクオフに関する知っておきたいことや注意しておきたいことをまとめてご紹介していきます。
- リスクオン相場・リスクオフ相場の意味は?
- リスクオフ時の投資先(リスクオフ資産、銘柄)にはどのようなものがありますか?
- リスクオン・リスクオフでドル円はどうなりますか?
- リスクオフで仮想通貨はどうなりますか?
- なぜリスクオンでは円安になるのですか?
- リスクオフで買われる通貨は?
- リスクオフでは金利はどうなりますか?
- リスクオンとリスクオフが判断できる指数はありますか?
リスクオン相場・リスクオフ相場の意味は?
リスクオン相場とは、投資家がより高い収益を目指し、リスクの高い資産に積極的に資金を投入する傾向にあるマーケットの状況を表す金融用語です。一方、リスクオフ相場とは、投資家がリスクを回避するために、より低リスクな資産に資金を移動する傾向にあるマーケットの状況を表します。
リスクオフ時の投資先にはどのようなものがありますか?
リスクオフ時の投資先(リスクオフ資産、銘柄)は、以下のようなものがあります。
- 米国債・日本国債
- 日本円・米ドル
- 金(ゴールド)
リスクオン・リスクオフでドル円はどうなりますか?
リスクオンでは、ドル円は上昇する傾向があります。なぜなら、リスクオン時に米ドルと円は共に売られますが、円の方がより売られやすいからです。
一方、リスクオフではドル円は下落する傾向があります。というのも、リスクオフ時に米ドルと円は共に買われますが、円の方がより買われやすいからです。
とはいえ、ロシアのウクライナ侵攻では異なる動きを見せたことから分かる通り、必ずセオリー通りになるわけではないので注意しましょう。
リスクオフで仮想通貨はどうなりますか?
仮想通貨はリスクオフに敏感に反応し、下落する傾向があります。なぜなら、仮想通貨はリスクの高い資産であると考える投資家が多いからです。
あくまで傾向ですが、悪いファンダメンタルズが出た場合、仮想通貨は売られやすいと言えます。
なぜリスクオンでは円安になるのですか?
リスクオンではキャリートレードが活発になることが、リスクオンで円安になる大きな理由です。リスクオン時には日本円のような低金利通貨は、高金利通貨を買う資金にするために売られがちになるのです。
リスクオフで買われる通貨は?
リスクオフで買われやすい通貨は、以下のような通貨が挙げられます。
- 米ドル
- 日本円
- スイスフラン
- ユーロ
リスクオフでは金利はどうなりますか?
リスクオフの状況では、通常、金利が下がる傾向があります。これにはいくつかの要因がありますが、例えば景気が悪くなると中央銀行は通常、マーケットの安定性を維持し、経済を刺激するために政策金利を引き下げます。
リスクオンとリスクオフが判断できる指数はありますか?
マーケットのリスクオンやリスクオフを判断できる指数として代表的なものに、VIX指数があります。VIX指数は「恐怖指数」とも呼ばれ、米国の主要株価指数であるS&P500のオプションをもとに算出される予想変動率のことです。
将来の価格変動が大きいと予想されると、投資家は不安になります。そのため、VIX指数が低いほどリスクオン、高いほどリスクオフと判断することが可能です。
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