※2024年5月31日更新
FXのセンチメント分析は、トレーダーが価格の動きを理解して行動を起こすうえで役立つツールです。FXでは、堅実なテクニカル分析とファンダメンタルズ分析が大切ですが、センチメント分析を利用して市場のコンセンサスをあわせて理解することも、トレーダーの予測精度を向上させるために欠かせません。
本記事では、センチメント分析とは何か、FXとの関係性、センチメント分析の指標、取引戦略について解説します。
センチメントとは？
センチメントとは、個人の感情や心情、気分のことで、FXの市場センチメントは、投資家が特定の市場または金融商品についてどのように感じているかを定義するものです。トレーダーのセンチメントは、市場の一般的なコンセンサスがポジティブになるほど、よりポジティブに傾きます。同じように、市場の参加者がネガティブな態度を取り始めると、センチメントもネガティブになります。
FXトレードにおけるセンチメント分析
FXのセンチメント分析とは、市場全体のポジションがネットロングなのか、ネットショートなのかを特定するツールのこと。トレーダーは市場のセンチメントをセンチメント指標などのツールを使用したり、単に市場の動きを見たりして判断します。例えば、弱気の市場はアセットの価格が下落することでより明確になる一方、強気の市場は価格の上昇によって、強気と判断しやすくなります。なお、センチメント分析はFXだけでなく、株式やその他のアセットにも使用されます。
以下は、FXのセンチメント分析を表したものです。
トレーダーはセンチメント分析を市場の強気、または弱気を定義するために使用します。例えば、大多数のトレーダーが買いポジションに偏っている場合、市場は過剰に楽観的であると見なされ、価格が下落する可能性が高まります。また、逆張りの投資家はセンチメント分析を利用して、多勢が特定の通貨ペアを買うか売るかを判断し、センチメントの反対方向にポジションを取る機会を探します。
このように、センチメント分析を利用すると、トレーダーは単に過去のトレンドやパターンを追うのではなく、市場参加者の心理を理解できます。
【関連記事】「FXの戦略で重要な雇用統計や失業率、平均時給をプロが解説！」では、ファンダメンタルズ分析について学ぶことができます。
FXでセンチメント分析を活用した例
センチメント分析をFXに適用した例として、2016年における英ポンド/ドルの大きな動きが参考になります。
英国がEU脱退を可決した後のネガティブなセンチメントにより、英ポンドは31年来の最安値を付けました。その翌年は概ねポジティブなセンチメントでしたが、2018年は再びほとんどの期間でネガティブなセンチメントが大半を占め、2019年になって上昇トレンドが始まりました。
ネットショートセンチメントのもう1つの例として、以下のユーロ/英ポンドのチャートが挙げられます。21.9％のトレーダーがネットロングのため、ショート対ロングのトレーダーの割合は3.58対1です。以下のチャートは、ネットロングポジションを持っているIG証券のトレーダーの割合を青で、ネットショートポジションを持っているトレーダーの割合を赤で示しています。
ネガティブなセンチメントを示すチャートとプライスアクション
上昇するセンチメントは、トレンドを上昇させ続けるトレーダーがあまり残っていないことを意味することがあり、その場合、トレーダーは価格の反落を待ちます。逆に価格が低下し、天井を打ったシグナルを示しているときは、センチメントトレーダーにショートのエントリーを促している場合があります。以下のチャートは、ユーロ/ドルがネットポジティブセンチメントを得ている例を示しています。
ポジティブなセンチメントを示すチャートとプライスアクション
FXで使えるセンチメント分析の指標2つ
センチメント指標は、トレーダーが市場の状態についてどれだけ楽観的、または悲観的かを数字またはグラフで示します。センチメント指標では、通貨ペア1つにおける一定のポジションに対して取られた取引の割合を表しています。例えば、70％のトレーダーがロングで、30％がショートということは、単純に70％のトレーダーがその通貨ペアに対しロングのポジションを保有していることを意味します。
FXトレーダーが利用できるセンチメント指標として、上記のチャートで表示しているIGクライアントセンチメント（IGCS）と、コミットメンツ・オブ・トレーダーズ（COT）レポートが挙げられます。
IGクライアントセンチメント（IGCS）
IGクライアントセンチメント（IGCS）とは、特定の市場で発生しているロングとショートの取引数をプロットし、センチメントの転換点の雰囲気を捉えられるツールです。
【参考】センチメント指数のツールやレポートは、以下のページで確認できます。
コミットメンツ・オブ・トレーダーズ（COT）レポート
コミットメンツ・オブ・トレーダーズ（COT）レポートとは、米国商品先物取引委員会（CFTC）により毎週発表され、商品先物市場におけるトレーダーの保有ポジションを分類グループ別に示した市場シグナルのことです。レポートは毎週金曜日、米国東部時間午後3時30分（日本時間土曜日午前5時30分）に公開されます。
センチメント分析を活用したFXの取引戦略
ここでは、センチメント分析を活用した取引戦略を紹介します。
順張りと逆張り
FX市場でのセンチメント分析を用いた取引戦略には、主に順張りと逆張りの2つのアプローチがあります。
順張り戦略では、センチメント分析を活用して、多数派の意見に沿ったポジションを取ります。例えば、大多数のトレーダーが特定の通貨ペアが強気であると分析している場合、順張りのトレーダーはこの通貨ペアのポジションを保有するでしょう。このアプローチは、市場の流れに乗ることで利益を狙います。
一方、逆張り戦略では、センチメント分析を使って市場の過剰反応や極端なポジショニングを探します。多数派とは反対のポジションを取ることで、逆張りトレーダーは市場の調整や反転時に利益を狙います。例えば、特定の通貨ペアに対して極端な強気センチメントが見られる場合、逆張り戦略ではこの過熱感から反転する可能性を見込んで売りポジションを検討します。
短期取引におけるセンチメント分析の活用方法
短期取引では、市場のセンチメントが急激に変動することがよくあります。この変動を利用することで、トレーダーは小さな価格変動からも利益を得られます。センチメント分析を活用する際のポイントは、市場の極端な感情を捉え、それに基づいて迅速な取引判断を下すことです。
例えば、多くのトレーダーが、ある通貨ペアに対して強気のとき、市場は過熱している可能性があり、これは反転の兆しとなることがあります。そのため、短期トレーダーはこのようなセンチメントの極端な変動に注目し、反対方向へのポジションを検討することが有効な戦略となります。センチメント分析を通じて、市場の感情に基づく過剰反応や不合理な動きを見抜き、短期的な取引戦略に組み込むことが重要です。
長期取引戦略におけるセンチメント分析の活用方法
長期的な取引戦略におけるセンチメント分析の利用は、市場の一般的なトレンドや大きな流れに乗るために必要です。長期間にわたりセンチメント指標を追跡することで、トレーダーは経済サイクルや政治的イベントが市場の感情にどのような影響を与えるかを理解できます。
例えば、楽観的なセンチメントが長期間続いている場合、市場は強気であると判断できます。反対に、悲観的な見方が増えているときは、市場が弱気になっている可能性があります。これらの情報を基に、トレーダーはエントリーポイントやエグジットポイントを計画し、リスク管理の戦略を立てられます。
ブレイクアウトのダマシを回避する戦略
ブレイクアウトのダマシとは、価格が重要なサポートラインやレジスタンスラインを突破したかのように見えても、実際には反転して初期の範囲内に戻る現象を指します。この現象により、多くのトレーダーが損失を被ることがあります。
センチメント分析を利用することで、市場の多数派がどのように感じているかを把握し、ダマシに対するリスクを軽減できます。例えば、センチメントが一方向に強く偏っている場合、ブレイクアウトが持続しない可能性が高いことを意味しているかもしれません。反対に、センチメント分析が示す市場参加者の意見が分かれている場合、ブレイクアウトが実際の動きであることを示唆しているでしょう。
この戦略を活用するには、定期的にセンチメント指標をチェックし、そのデータを価格動向と組み合わせて分析することが大切です。
平均回帰戦略と組み合わせる
平均回帰戦略とは、価格が長期的な平均に戻るという原理に基づく投資戦略を指します。FX市場においては、平均回帰戦略とセンチメント分析を組み合わせることも選択肢の1つ。市場の一般的な感情が極端なポジションにある場合、それを反転するサインと捉えます。
例えば、市場の大半が、ある通貨ペアの上昇を予想しているときに、センチメント指標が過度に一方向へ偏っていることを示していれば、将来的にその通貨ペアが反対方向に動く可能性が高いことを意味します。こうした情報を基に、トレーダーは平均回帰戦略を計画して実行できます。
この戦略は、市場の過熱や過冷却を見極め、相場がその平均値に戻るタイミングを予測するのに役立ちます。そのためには、センチメント分析のデータを継続的に監視し、理解することが不可欠です。
【関連記事】取引戦略を立てるうえでは、FXの取引スタイルを考慮したほうがよいでしょう。詳しくは、「FXの取引スタイル別の長所・短所と有効な戦略8選を解説！」をご覧ください。
センチメント分析を最大限に活用するためのポイント
センチメント分析を最大限に活用するためには、以下のポイントを押さえておきましょう。
継続的な市場監視と分析
センチメント分析を活用するには、継続的な市場監視と分析が重要です。市場のセンチメントは変化が激しい場合があり、その変動を追いかけることで、トレーダーはタイミングよくポジションを保有できます。
市場のセンチメントは、政治的な出来事や経済指標の発表など、さまざまな要因によっても影響を受けます。トレーダーがこれらの情報を継続的に注目し、分析することで市場の流れを読み取り、有利な取引を展開できます。そのためには、日々のニュースやデータの追跡が欠かせません。経験豊富なトレーダーでも、市場の変動を見逃すことがありますが、重要な指標やニュースはアラートを設定しておくなどの対策で、そのリスクを最小限に抑えられるはずです。
ツールや指標を組み合わせる
FX市場でセンチメント分析を最大限に活用するためには、ツールや指標を組み合わせた多角的な分析が必要です。単一の指標に頼るのではなく、複数のデータソースを組み合わせて分析することで、より包括的かつ精度の高い市場の見通しを得られます。
例えば、IGクライアントセンチメント（IGCS）でトレーダーのポジショニングを確認し、コミットメンツ・オブ・トレーダーズ（COT）レポートと比較することなどが挙げられます。さらに、最新の経済ニュースや政治的な出来事がセンチメントに及ぼす影響も考慮に入れることが重要です。
【関連記事】センチメント分析だけでなく、テクニカル指標を組み合わせることも有効。詳しくは、「テクニカル指標のタイプ別一覧、使いこなすためのヒントもプロが解説」をご覧ください。
まとめ
センチメント分析は、FX取引において有用なツールです。多くのトレーダーが、ファンダメンタルズ分析、またはテクニカル分析を行いますが、センチメント分析を通じて市場の感情を理解することも大事。市場の動きはトレーダーたちの感情や見解に強く影響されるからです。
センチメント分析を活用することで、市場が過剰反応している場合や、逆に反応が不足しているタイミングを見極められます。また、多数派の意見に逆らってポジションを取る逆張り戦略など、取引戦略を立てる際の重要な情報源となります。
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