ユーロのファンダメンタルズ展望 - 2022年第3四半期
- ユーロは2020年12月以降、対主要通貨で下落基調が継続
- 2022年第2四半期はECBによるインフレ対策を背景に、ユーロは小幅に上昇
- 欧州債務危機への懸念が利上げ幅を制限し、ユーロを押し下げる可能性がある
ユーロは2020年12月以降、主要通貨に対して下落基調が続いた。この転換点が、金価格が高騰し、米連邦準備制度理事会（FRB）の利上げ観測が高まり始めた時期と重なったことは注目に値する。FRBは、新型コロナウイルス感染症拡大を踏まえた景気刺激策に追加的な策を講じたことを示唆していた。
当然のことながら、2021年6月にFRBによる金融引き締めが明白に始まると、これまで弱含みだったユーロの下落が加速し始めた。市場は、超ハト派的な欧州中央銀行（ECB）は他の多くの国のように米国の利上げの動きに追随しないだろうと考え、ユーロに対するイールドスプレッドを拡大させた。
ECBの利上げ観測が高まり、ユーロの下落基調に歯止め（週足チャート）
資料：TradingView
しかし、2022年第2四半期に欧州の消費者物価指数（CPI）が記録的な高水準に達し、欧州当局はついにインフレ対策に乗り出すと示唆した。5月には8.1%という驚異的なインフレ率を記録し、ユーロは底を打ち、利上げ期待を背景にじりじりと上昇し始めた。
ユーロ圏の債務危機への懸念が再燃、ECBはインフレ対策に乗り出す
6月9日、ECBが利上げの実施を正式に発表したことで、利上げ観測が一気に高まった。ECBは以前、通常の景気刺激策とは異なる国債の購入を7月に終了すると発表していた。それから1週間も経たないうちに緊急会合が開かれ、新たな取り組みによりユーロ圏債券市場の「断片化」回避を試みる姿勢を示した。
その結果、ユーロの上昇が止まった。ECBの金融引き締め観測は、ユーロ圏の一部の国々における高水準の債務に対する懸念を再燃させた。イタリアと欧州国債市場で指標銘柄となるドイツの10年物国債利回りのスプレッドは、6月の政策会合後に242ベーシスポイント（bps）と、2年ぶりの高水準に急拡大した。
ユーロ圏債券市場の「断片化」、すなわちユーロ圏諸国間における貸出金利の乖離という現象により、ECBは世界の他の国々と比較して控えめな金融引き締めを実施する必要があるように思われる。このため、ユーロは非常に不利な状況にあり、下落トレンドの再開が示されているように見受けられる。
財政改革はECBの頼みの綱、しかし実現はまだ先
ECBが引き締めの手綱を緩めるのに必要な構造改革、すなわち「ユーロ債」の共同発行や南欧諸国の債務残高の最終的な削減は、可能だとしてもまだ遠い先のことに思えるし、実現には独仏の賛同が不可欠だが、それは難しい注文のように見受けられる。ドイツとフランスは他の優先事項に取り組みそうである。
ロシアのウクライナ侵略と、それが地域の地政学的または経済的な安定に及ぼす影響が引き続き、影を落としており、とりわけロシアに依存せずに適正な価格でエネルギー供給を確保するという課題が目の前に突き付けられている。また、新型コロナウイルス感染症拡大を背景とした都市閉鎖の影響により中国市場が混乱を招くことも懸念されている。
ユーロ圏第2位の経済大国であるフランスの政権支持が低迷していることも、財政問題をさらに複雑にしている。フランスのマクロン大統領は再選を果たしたが、マクロン氏率いる与党連合はフランス議会で過半数を失い、今後5年間は大きな成果を上げることができないだろう。
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