天然ガスはデイトレーダーに特に人気のある商品です。流動性が高くスプレッドが狭いため容易にトレードを始めることができるからです。また、天然ガスはマクロ的な資産で、トレンドが長期に渡って維持される商品として長期トレーダーにとっても魅力的です。一般的に天然ガスはボラティリティの影響を受けやすく、価格が大幅に上昇することがあります。ボラティリティの変動には季節的な要素が含まれており、それをトレーダーが利用できる点はメリットと言えるでしょう。
本記事では天然ガスのファンダメンタルズにおける基本事項を考察し、トレードでの活用方法を考えていきます。

天然ガス:季節性に合わせた投資法
天然ガスは、暖房、発電、工業用途に最も多く使用されます。天然ガスは年に2回、季節ごとに消費量のピークがあり、米国のさまざまなセクターでの使用状況はとても興味深いものです。
季節ごとの消費パターン
冬季:家庭や企業が主に暖房に使用するために消費量が増加する。
夏季:電力需要の増加に伴い消費量が増加する。
下のグラフでは、夏季のピークが赤丸で印した箇所、毎年1月頃にピークをむかえる冬季は青線の先端で確認できます。

季節による価格変動
冬季(平均価格が高い):一般家庭や企業が主に暖房でガスを使用するため、夏季に貯蔵されたガスの相当量が消費されます。大きなピークは通常冬季にあります。
夏季(平均価格が高い):夏場の電力需要が最も高くなる時期に小さなピークが見られます。これは冷房の使用量が増えることが原因です。
下のチャートは近年の冬期における価格動向(高値と安値)を示しています。

このような状況下で冬場に変動するボラティリティでのトレードを検討する際には、一年で最も寒い時期に向けてトレンドに沿った動きをする前のプルバック(引き戻し)やもみ合いの期間を探すことができるでしょう。特に貯蔵量が平均よりも少ない場合、真冬に向けて価格が上昇することは珍しくありません。
この手法は一年で最も寒い時期に向けたロングトレードに適用されます。
冬季の天然ガストレード

天然ガスへの投資:貯蔵に関する数値(需要と供給)
需要と供給の原則は天然ガスのトレードにも大いに当てはまります。関連する貯蔵データは、米国エネルギー情報局のウェブサイトで毎週確認できます。本レポートでは地域ごとの貯蔵量変化における内訳を、週毎、年毎および5年毎の平均で表示しています。
表:米国エネルギー情報局の週間天然ガス貯蔵量

天然ガスは貯蔵量の発表前後に変動しやすい傾向があるため、できるだけ早くてわかりやすい形式でこれらの数値を入手することが求められます。DailyFXが提供する総合的な経済指標カレンダーでは、トレードやマーケットに関連するデータをタイムリーに確認することができます。

天然ガスの貯蔵量が価格に与える影響
貯蔵量の急激な減少や平均量以下の状態が長期間継続すると、将来の価格に影響を与えることになるでしょう。下の図は2015年9月から2020年9月までの5年間における天然ガス価格(黒の点線)と米国の天然ガス貯蔵量の変化(青の線)を比較したものです。
このように長期間でマーケットを観察することで、短い時間軸では見えてこないトレンドやパターンを見極めることができます。この分析手法は マルチタイムフレーム分析と呼ばれ、マーケットをより深く理解するための一般的な方法です。
下のグラフで繰り返し確認できる赤枠で示された特徴的な現象は、貯蔵量の数値が減少する冬季に毎年同じように現れています。これは暖房用などの需要増加に伴い、貯蔵量が減少したことを示しています。貯蔵されている天然ガスは寒い時期になると需要が供給を上回るため価格が上昇します。価格調整は需要と供給を均衡に戻すための自然なメカニズムです。また、寒さが和らいでくるとガス需要が減ることで貯蔵量が再び増えてきます。
天然ガスの貯蔵量と価格の関係

貯蔵数値の変化は上記で説明した季節性を裏付けるものであると言えますが、天然ガスの貯蔵量に影響を与える要因として異常気象があることも念頭においてください。
トレーダーは冬期トレンドの方向性を検討する中で、さまざまなテクニカル指標を活用することができます。そうすることで、貯蔵量が減少して価格が上昇するタイミングからマーケットに参入することができます。ここまではロングトレードについて説明してきましたが、その理由は価格上昇時の方が、下降時(または貯蔵量が増加したとき)よりもボラティリティが大きくなる傾向があるからです。しかしながら、天然ガスの需要が先細りになり貯蔵量が増える時期にもショートトレードのチャンスがあります。



天然ガスへの投資:経済状況と供給の混乱
経済サイクルをトレンドフィルターとして使用する
天然ガスは産業プロセスと密接な関係にあるため、経済状況も価格に影響を与えます。経済が成長しているときはインフラへの投資が増え、それを支えるための機械需要が増えていきます。
さらに天然ガスはアンモニア、メタノール、ブタン、エタン、プロパンなど様々な化学物質の生産に使用されるため、製造業も活発になる傾向があります。
一般的に景気が良くなると天然ガスの需要が増えて価格が上昇すると考えられています。この現象は経済の健全性を示す指標としてS&P500を用いたケース(赤線)において天然ガス価格(青線)がさらに極端な形で上昇する様子からも確認することができるでしょう。(下図参照)
こうした理由から、トレンドトレーダーは現在の経済サイクルがどの段階にあるかを注視しておく必要があります。景気が拡大していればロングトレード、景気が縮小していればショートトレードのように適切な時期を見極めたトレードを心がけましょう。
天然ガス価格は景気に合わせて動く傾向がある

供給の混乱
上記と同期間内の別のデータにより、通常時見られる夏の暑さや冬の寒さという要因に加えて、その他の外的要因や異常気象の影響を受けた3つの大きな急騰を確認することができました。極端な寒波やハリケーンのような異常気象は、インフラの損傷や天然ガスの輸送遅延などに影響することがあります。そのようなケースでは特に重大な供給混乱を引き起こす可能性があるでしょう。
このようなことが2005年と2008年に実際に起こりました。混乱を引き起こす極端なケースについて詳しく説明します。
異常気象による天然ガスの価格高騰

2000-2001年:最初の大きな急騰は、長年の生産量減少に続く需要の増加によって発生しました。平年よりも寒い日が続いたことで需要が増加しましたが、需要が少ない期間が長く続いたことで貯蔵量が極端に減少し、大きな価格ショックが発生しました。
2005年: 2つ目の急騰はメキシコ湾を襲ったハリケーン「カトリーナ」によるものでした。メキシコ湾は米国の天然ガス処理プラントの総容量で51%を占めており、天然ガスマーケットにとって極めて重要な地域です。このハリケーンによりメキシコ湾からの供給に大きな影響を受けて価格が急激に上昇しました。
2008年:通常であれば季節的な天候が価格に影響しますが、この年に発生したハリケーン「グスタフ」と「アイク」はメキシコ湾とルイジアナ州の生産停止を引き起こしました。天然ガス価格が夏に急上昇して冬に下降するという予測とは逆の結果が起こりました。
こういったことがあるので、天然ガスのサプライチェーンに直接影響を与え得る地域の貯蔵量と異常気象に関しては最新情報を入手することをおすすめします。投機家は、これらの事象を価格上昇で利益を得るチャンスとしてロングのエントリータイミングを検討する必要があるでしょう。



天然ガスの取引時間帯
天然ガストレードをおこなう際にはマーケットの取引時間帯を把握することが重要です。天然ガスの世界的な価格基準となっているNYMEXヘンリーハブ天然ガス先物(NG)の取引時間帯は以下の通りです。
米国中部標準時で日~金の午後5:00~午後4:00(日本時間で月~土の午前8:00~午前7:00)
毎日午後4:00(日本時間午前7:00)から60分間の休憩
戦略、戦術、手法を深く学ぶためにはシミュレーション環境でのトレードをおすすめします。 IGグループの無料デモをご希望の方はこちらをクリック