米国雇用統計を控えて欧米にてインフレ指標が公表された。FRB、ECBともに利上げ停止が近付き、インフレ、雇用指標の重要性が一段と高まる中、今後のドル円、ユーロドルの見通しとは



サマリー
- 米欧インフレ指標の結果&米国雇用統計
- 個人トレーダーのセンチメントは、ドル円&ユーロドルの上昇を示唆
- ドル円&ユーロドルの見通し
欧米インフレ指標
FRB(米連邦準備制度理事会)、ECB(欧州中央銀行)ともに利上げ停止が近付く中、米国PCE物価指数、ユーロ圏インフレ率が公表された。米国PCE物価指数は、前年と比べた伸びは加速したものの(今回:+3.3%、前月:+3.0%)、前月と比べた伸びは+0.2%にとどまり、米国のインフレ鈍化が進展していることを改めて示した。
一方、ユーロ圏の消費者物価指数(総合インフレ率)は、前年と比べた伸びは前月と同じ+5.3%となり、インフレ鈍化の流れが止まった。基調的インフレ圧力を示すコアインフレは鈍化が見られたものの、事前の市場予想と同じ前年比+5.3%と高い伸びを示し、ユーロ圏のインフレ圧力が依然として根強いことを示した。ユーロ圏では、インフレが高止まりする中、ドイツの小売売上高が予想を下回ったことやドイツ雇用市場の軟化が示されたことなどを背景に、スタグフレーション懸念(高インフレかつ景気減速)が台頭し、ユーロ安が進展した。
欧米インフレ指標の発表を経て、金融市場では9月FOMC(米連邦公開市場委員会)及びECB(欧州中央銀行)理事会での政策金利据え置きが予想されている。その後は、年内あと1回の利上げがあるかどうかで両中央銀行ともに意見がわかれている。

資料:BloombergよりDailyFXが作成。
米国雇用統計
9月1日発表の重要指標、米国雇用統計の結果次第で、FRBの政策金利見通し、更にECBも含めたその他中央銀行の金融政策見通しに影響を与える可能性がある。FRBの政策金利見通しの変化に伴い、ドル円やユーロドルなどの為替相場が変動しよう。
雇用統計の事前予想は、非農業部門雇用者数は17万人増(前回18.7万人増)、失業率は3.5%(前回と同じ)、平均時給(前年比)は4.4%(前回と同じ)と予想されている。事前予想通りに米国労働市場の軟化を示した場合、FRBの利上げ織り込みが一段と後退、ドル安(ドル安円高、ユーロ高ドル安)が進展することを見込む。

資料:Trading Economics
このような中、個人トレーダーのセンチメントはドル円、ユーロドルに中立であるが、ドル円及びユーロドルの見通しとは。詳しく見てみたい。
ドル円の個人トレーダーセンチメント
逆張り指標として機能する傾向のあるIG顧客センチメント(IGCS)によると、USDJPYを取引する個人トレーダーの約23%がネットロング(USDJPYを買い持ち、ドルに強気)にしている。ほとんどの持ち高はネットショート(USDショートJPYロング、ドルに弱気)に傾いているが、IGCSは逆張り指標として機能することを勘案すると、ドル高円安が進展する可能性を示唆している。
一方、昨日と比べてネットショートのトレーダー(ドルに弱気)の割合が減少している一方、先週と比べてネットショートのトレーダーの割合が増えており、まちまちである。このことを考えると、個人トレーダーのセンチメントはドル円に対して中立である。
IGCS:ドル円




資料:DailyFX.com IG顧客センチメント(IGCS)
米ドル円(USDJPY)の見通し



個人トレーダーセンチメントは中立である中、ドル円は、昨年10月から今年1月にかけてのドル円の値動きに基づいたフィボナッチリトレースメント78.6%水準146.652レベルを終値ベースで上方ブレイクすることに失敗し、ドル安円高が進行している。また、MACDラインがシグナルラインを下抜ける弱気の「デッドクロス」が示現しており、テクニカル面ではドル円の弱気シグナルが点灯しつつある。
米国雇用統計で労働市場の軟化を示した場合、ドル円は下落しよう。ドル円が水平サポートラインである145.07レベルを下方ブレイクすると、ドル高円安トレンドの反転を示唆する小型の「三尊天井(ヘッドアンドショルダーパターン)」パターンが成立、7月中旬以降のドル高円安トレンドが終了した可能性が高まる。その場合、ドル円は心理的節目である144.00レベルへの下落が視野に入る。
FRBの年内追加利上げの可能性が高まった場合、ドル円は、フィボナッチ78.6%146.652レベルを終値ベースで上方ブレイクできるかに注目。ドル円がブレイクに成功した場合、「三尊天井」パターンが無効になり、7月以降のドル高円安トレンド再開の道がひらける。
USDJPY日足チャート

資料:Trading View
ユーロドルの個人トレーダーセンチメント
逆張り指標として機能する傾向のあるIG顧客センチメント(IGCS)によると、EURUSDを取引する個人トレーダーの約63%がネットロング(EURUSDを買い持ち、ユーロに強気)にしている。半分以上の持ち高はネットロング(ユーロに強気)に傾いているため、IGCSは逆張り指標として機能することを勘案すると、ユーロ安ドル高が進展する可能性を示唆している。
しかしながら、昨日と比べてネットロングのトレーダー(ユーロに強気)の割合が増加している一方、先週と比べてネットロングのトレーダーの割合が低下しており、まちまちである。このことを考えると、個人トレーダーセンチメントはユーロドルに中立である。
IGCS:ユーロドル




資料:DailyFX.com IG顧客センチメント(IGCS)
ユーロドル(EURUSD)見通し
5月末から7月18日までのユーロドルの値動きに基づいたフィボナッチリトレースメント78.6%水準1.077レベルがサポートラインとして機能し反発している。
ユーロドルは、フィボナッチ61.8%水準1.088レベルを一時上方ブレイクしたものの、その後反落した。
しかしながら、7月6日安値1.083レベルでサポートされており、ユーロ安地合いが弱まりつつあることを示唆している。また、MACDラインもシグナルラインを上抜けるユーロ安圧力が衰えていることを示唆する「ゴールデンクロス」が示現している。
テクニカル面では、ユーロ安トレンドからの転換を示唆している。米国雇用統計の結果、FRBの利上げ織り込みが一段と後退した場合、ユーロドルは、フィボナッチ61.8%水準1.088を終値ベースで上方ブレイクしよう。次のユーロドルの上値の目処として、5月末から7月18日のユーロドルの上昇の半値戻しの水準である1.096レベルが視野に入る。
一方、FRBの利上げ織り込みが一段と進展した場合、ユーロドルは、7月6日安値1.083レベルでサポートされるかに注目。下方ブレイクした場合、ユーロドルは、フィボナッチ78.6%水準1.077レベルへ下落する可能性がある。
ユーロドル(EURUSD)日足チャート

資料:Trading View



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--- DailyFX.com ストラテジスト 木全哲也著