※2023年8月2日10時47分更新
ドル、NYダウ、フィッチによる米国債格下げ - 金融市場アップデート
- フィッチによる米国債格下げを受け、ドルとNYダウは下落
- 財政悪化懸念、高齢化に伴う社会保障費の増加などが浮き彫りに
- 金融市場は2日の取引に向けてリスク回避志向に転じている



格付け大手フィッチ・レーティングスが1日、財政悪化懸念などを理由に、長期外貨建て米国債の信用格付けを最上級の「トリプルA」から「ダブルAプラス」に1段階引き下げたとの報道が伝わると、ドル、ダウ工業株30種平均株価、S&P 500種株価指数、ナスダック100指数は軒並み下落した。格下げの理由としてフィッチは「今後3年間に予想される財政状況の悪化」を挙げた。さらには「高齢化に伴う社会保障費とメディケア(高齢者向け公的医療保険制度)費の増加など中期的な課題への取り組みは限られた進展しかない」とも指摘した。
高齢化が進む米国にとって、社会保障費とメディケア費の増加は大きな課題である。米議会予算局(CBO)によると、65歳以上の人口の伸びが若い世代の伸びを上回り、人口動態の高齢化率が上がっている。このため、壮年期(40-64歳)の加入者から資金を調達する制度を維持するのは難しくなってきている。
米国の信用格付けの引き下げは今回が初めてではない。金融市場では、過去にも株式が同様の反応を示したことがあるが、影響は短期間で終わることが多かった。今回がこれまでと違うのは、金利上昇により負債コストが増加している点だ。CBOは、金利負担の年間正味費用は今後10年間でほぼ倍増すると予測している。
米政府は、財政赤字削減のために政府支出の削減や増税を実施する緊縮財政に乗り出す気はほとんどないようだ。緊縮財政は実質的に、金融引き締めと同様の機能を果たし、適切な時期に発動されれば、景気を減速させるのに役立つ。しかし、CBOの予測では、財政赤字は国内総生産(GDP)の5.3%から2033年には7%へと増加する見込みだ。
今回の格下げがこの先、米国株にどのような影響を与えるかはまだわからない。すでに上昇している米国債費はさらに押し上がるだろう。ある意味、米連邦準備制度理事会(FRB)の追加利上げを抑止する可能性さえある。一方、米株価指数先物の下落は、2日の取引に向けAPAC(アジア太平洋地域)市場ではリスク回避の動きが広がる可能性を示唆している。
ドルのテクニカル分析
ドル相場は、50日移動平均線がレジスタンスとして機能していたものの、現在はこれを下回る水準で推移している。しかし、ドル指数は100.82-101.02の変曲ゾーンを上回る水準を維持している。価格がさらに下降する場合は、重要なサポートとなるこのゾーンを注視すべきだろう。一方、上昇局面では、3月から続く下降トレンドライン(レジスタンス)を突破できるかが焦点となる。
ドル指数 日足チャート
資料:TradingView
NYダウのテクニカル分析
一方、ダウ工業株30種平均は2022年2月の高値35,752のすぐ下に位置している。このレジスタンスを突破できない場合は、20日移動平均線に向けて下落する可能性がある。この移動線はサポートとなり、上向きバイアスが維持されるかもしれない。大局的に見れば、昨年10月から続く上昇トレンドライン(サポート)が依然としてダウ平均を上向きに導いている。下落基調がある程度続かない限り、強気なテクニカル見通しを覆すのは難しいだろう。
NYダウ 日足チャート
資料:TradingView
--- DailyFX.com シニアストラテジスト ダニエル・ドゥブロスキー著
ドゥブロスキー氏に連絡するには、Twitter で @ddubrovskyFX までお願いいたします。