大手格付機関フィッチ社は、米国債の格付けを「AAA」から「AA+」に格下げした。主要格付け機関の中で、2011年のS&P社に続く最上級「AAA」からの格下げである。2011年のS&P社の格下げ時の動向、及び今後の金融市場の反応は?



サマリー
- 2011年のS&P社に続き、フィッチ社が米国債を格下げ
- 2011年の「米国債ショック」時は影響は短期的なものにとどまった
- 今後の予想される金融市場の反応は?VIXは投資家が楽観的であることを示唆
フィッチ社、米国債を格下げ
米大手格付会社フィッチは、米国債の格付けを最も信用力が高い「AAA」から一つ下の「AA+」に格下げし、見通しを安定的とした。6月に米国債務上限を25年1月まで停止するという超党派の合意が成立したものの、想定される財政状況の悪化、増加している政府債務残高の増加等を格下げの理由にあげた。今回の格下げを受け、イエレン米財務長官は、フィッチ社の決定は古いデータに基づいており、「恣意的」かつ「古いデータに基づいている」と批判している。今回のフィッチ社の決定を受け、S&P500指数先物は下落、金価格は上昇、米ドル安(小幅に円高)が進展しているものの、反応は限定的なものにとどまっている。

資料:Trading View
2011年の「米国債ショック」時の反応
今回の格下げを受け、主要格付け機関(ムーディーズ社、S&P社、フィッチ社)で最上級(AAA相当)を維持しているのはムーディーズ社のみとなった。S&P社は2011年8月に、米国債を「AAA」から「AA+」へ格下げし、世界の株式・債券・通貨市場に大きな影響を与えた。S&P社による米国債の格下げ及びそれに伴う資産市場のショックは「米国債ショック」として知られている。2011年のS&P社による格下げは、今回の格下げ同様、米国債務上限問題の交渉難航に絡んだものであった。
2011年の「米国債ショック」の際には、株式は下落、国債価格は上昇、金価格は上昇した。ただし、当時はギリシャ経済危機を発端とする「欧州債務危機」も同時に発生しており、S&P社による米国債格下げ以外にも様々なショックが金融市場を揺るがしていた。また、「米国債ショック」の際は、一時米国債利回り低下(債券価格上昇)、金価格上昇、ドル安円高、S&P500指数下落といったリスクオフの反応を示したものの、その後はドル円を除き緩やかに回復し、10月後半にはS&P500指数は下落分をほぼ取り戻し、金価格もショック前の水準に戻った。

資料:Trading Economics
今後の予想される反応
今回のフィッチ社の格下げは、2011年と異なり、既にS&P社が最上級の「AAA」から格下げをしていたことから、影響は当時と比べて限定的なものにとどまると見込む。しかしかながら、投資家はショックに対して脆弱な状態であり、影響が大きくなる可能性もあり、注意が必要である。米国株の投資家心理を示すボラティリティ指数(VIX指数、S&P500指数オプションより算出)は、3月の金融不安以降、低位で推移しており、投資家が米国株に対して楽観的であることを示している。投資家が楽観的であるからこそ、フィッチ社の米国債格下げの影響が大きくなる可能性がある。

資料:BloombergよりDailyFXが作成。



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-- DailyFX.com ストラテジスト 木全哲也著