


S&P 500種株価指数は2023年に大きく回復し、年初来で13%以上の上昇となっている。その原動力は、“人工知能”の出現が生産性を高め、最終的に収益を押し上げるという楽観と思惑を背景とするテクノロジーセクターの驚異的な強気の姿勢だ。
2023年の上昇の大部分は、後に改善したものの広がりに乏しく、その改善は広範な参加を示すには不十分であった。一般に、マーケットの内部が弱く、一部の市場参加者しか指数上昇の動きに関与していない場合、その上昇は長続きしない傾向がある。
確かに人工知能は今後、企業の利益拡大を導く可能性がある。とはいえ、すぐにその変化が起こるわけではないだろう。仮に将来そうなったとしても、無視できない重要なリスクがひとつある。それは、ファンダメンタルズの弱さだ。
この数四半期、米国経済の驚異的な回復力とインフレが企業収益の維持を支え、「最悪期は脱しトンネルの先の光が近づいている」という誤解に多くのアナリストを導いている。しかし、この評価は楽観的すぎるかもしれない。
米国経済が、これまで大きなダメージを受けることなく、数多くの課題にも持ちこたえてきたのは事実だが、やがて潮目が変わる可能性もある。金利は5.0%前後で推移し、FRB(米連邦準備制度理事会)は50ベーシスポイントの追加利上げをおこなう意向であることから、マクロ経済の見通しが中央銀行の過剰な引き締めによる圧力に屈するのは時間の問題だ。
総需要がFRBの強引な利上げサイクルに影響されていない理由は、恐らく、金融政策を実施してから効果が出るまでの間には長いタイムラグをともなうためであるが、引き締めによる影響が実体経済に波及するにつれ、景気後退の恐怖が再び浮き上がってくるはずだ。
正しい時期を見定めるのは難しいが、6月の米失業保険申請件数の着実な増加は、労働市場に亀裂が入る兆しの可能性がある。このため、雇用統計の動向に注意することは重要であり、非農業部門雇用者数が初めてマイナスになれば、強気派がツケを払う日がやってくるかもしれないと見られている。



景気後退の可能性と収益に及ぼすその影響はさておき、他にも注目に値するリスクがある。そのひとつめはインフレ率の低下だ。消費者物価指数(CPI)の下落傾向は消費者にとっては喜ばしいことだが、収益成長と利益率にはマイナスだ。7月に第2四半期の報告期間が始まれば、ウォール街ではこの力学がより明らかとなるはずである。
株価に暗い影を落とすもう一つの逆風は、流動性の低下である。米国政府は、債務上限問題を受けて1兆2千億ドルの財源を確保し国債の発行を増やしているため、銀行の支払準備金が大幅に減少し、通貨供給量が減る可能性がある。いうまでもなく、これはリスク資産にとって好ましいことではない。
以上の理由から、S&P 500は第3四半期に愕然とするほど大幅な下落に見舞われる可能性がある。そしてこの出来事によって、2023年の相場上昇中に蓄積された過熱感は取り除かれることになるだろう。その意味では、リスクリワードの観点からは弱気のセットアップがより魅力的に見える。
個人的には、S&P 500下落への賭けを検討する前に軽い戻り目を待ちたいが、恐らく重要なサポート水準を一時的に外れたときに起こり、それより先ではないはずだ。マーケットの勢いが既に打撃を受けている場合は、マイナスのセンチメントが弱気を強化する可能性があり、そうなれば売り取引が利益を得ることになる。
S&P 500の週足チャートを見ると、50日単純移動平均線と3月の安値からの上昇トレンドライン、2月の最高値が重なる心理的な水準の4,200が、破られた場合に売り手を引き戻す可能性のあるテクニカルな水準になっている。
4,200を守れなかった場合、追随する売りが強まり、2022年10月から2023年6月の陽線のフィボナッチリトレースメント38.2%である4,085を目指す展開となる可能性がある。この水準を突破した場合にはさらなる下落が予想されるが、200日単純移動平均線と昨年の安値からの上昇トレンドラインやや上方に位置する4,005が次のサポートラインとなるだろう。
変動 | ロング | ショート | 建玉 |
日次 | 7% | -3% | 2% |
週次 | 48% | -16% | 10% |
S&P 500 週足チャート
出所:TradingView、チャート作成:ディエゴ・コルマン