FRBの金融政策不透明感、中国景気の低迷等を背景に、原油、天然ガスなどの資源価格は8月に下落した。ジャクソンホール会議を経て、米国金融政策不透明感が後退する中、原油、天然ガス価格の今後の見通しとは



サマリー
- 8月は資源価格の相場
- 原油・天然ガスの個人トレーダー、ヘッジファンド動向
- 原油&天然ガス価格の今後の見通し
8月の原油・天然ガス振り返り
8月は、ジャクソンホール会議を控えたFRBの金融政策を巡る不透明感、中国景気の低迷、中国不動産市場に対する懸念を背景に、原油価格は7月末と比べて-1.5%、天然ガス価格は-2.3%となった(8月29日早朝時点)。米国金融政策の不確実性が高まる中、米国金利は上昇、米ドル高が進展し、資源価格の重荷となった。
原油や天然ガス価格は米ドル建てで決定されていることから、USDが安い(高い)ほど多く(少なく)買えるため、USD下落(上昇)時には原油や天然ガス価格が上昇(下落)する傾向がある。

資料:Trading Economics。8月29日時点
ジャクソンホール会議では、パウエルFRB議長は今後の金融政策についてデータ次第である旨を強調し、利上げの有無についての明確なヒントを示さなかった。
中国では、中央銀行である人民銀行は利下げを実施したものの、中国当局から大規模な経済対策、金融緩和策は打ち出されていない。そのため、中国景気の回復による資源価格の上昇は見込みづらい。
FRBやECB(欧州中央銀行)などの主要中央銀行の利上げ停止が近付く中、今後は一段とインフレ、雇用、経済指標が重要になろう。米国雇用統計、欧米消費者物価指数といった重要経済指標によって、利上げ停止なのか、更なる利上げがあるのか金融市場の予想が変動し、原油や天然ガス価格が変動する可能性がある。
原油の個人トレーダーセンチメント
IG顧客センチメント(IGCS)によると、原油を取引する個人トレーダーの約53%がネットロング(原油を買い持ち)にしている。IGCSは逆張り指標として機能することがあるが、半分以上の持ち高はまだネットロングに傾いているため、原油価格は下落する可能性を示唆している。
また、昨日、先週と比べてネットロングのトレーダーの割合が増えている。このことを考えると、原油価格は下落する可能性があり、個人トレーダーのセンチメントは原油価格にとってネガティブである。
IGCS:原油




資料:IG顧客センチメント
原油・天然ガスのヘッジファンドポジション動向
原油・天然ガス価格動向に敏感なヘッジファンド等(投機筋)は、原油先物のロングポジション(原油先物の買い持ち)を積み増し、天然ガス先物のショートポジション(天然ガス先物の売り持ち)を削減している。原油及び天然ガス価格の見通しに一段と強気、もしくは弱気から強気に転換しつつあることを示唆している。
ただし、原油先物のネットロングポジション(ロング―ショート)は過去と比べて低水準であり、天然ガス先物のネットショートポジションは依然として高水準である。このことは、原油や天然ガス先物のロングポジションを一段と積み増し(もしくはショートポジションを削減)、価格の上昇要因となる可能性がある。

資料:BloombergよりDailyFXが作成。
原油価格見通し



WTI原油価格は、週足チャートで、昨年11月から今年3月までの値動きに基づいたフィボナッチリトレースメント38.2%水準82.53ドル(1バレル当たり)を一時上方ブレイクしたものの、その後反落し、同水準がレジスタンスとして機能していることを示した。
しかしながら、RSIは50を上回り、原油の強気モメンタムを示唆している。また、9期間指数移動平均線が50期間指数移動平均線を上抜ける原油価格に強気の「ゴールデンクロス」が成立しており、原油価格の上昇トレンドを示唆している。
テクニカル面、個人トレーダーセンチメント、ヘッジファンドのポジションは強弱入り混じるシグナルを出している。
しかしながら、ジャクソンホール会議を経て、原油価格の重荷となってきた金融政策に対する不透明感は晴れつつあり、原油価格の上昇を見込む。原油価格は、フィボナッチ38.2%水準82.53ドルを上方ブレイクすると、上昇圧力が一段と強まり、フィボナッチ23.6%水準86.81ドルが視野に入る。
WTI原油価格週足チャート

資料:Trading View
天然ガス価格見通し
8月の天然ガス価格(NG1)は、 2月の高値3.03レベル(MMBtu当たり)の上方ブレイクをトライしたものの、ジャクソンホール会議を控えたFRBの金融政策不透明感や、欧州での天然ガスの貯蔵率が高水準であること等を背景に、再び下落に転じ、現在は2.60台レベルで推移している。
一方、世界有数のオーストラリアにある液化天然ガス(LNG)施設での労働ストライキ、天然ガスの供給減の可能性があること、ウクライナでの戦争の影響でロシアから欧州向け供給が減少していること、ノルウェーで天然ガスの供給障害が長引いていることが天然ガス価格をサポートしている。
ヘッジファンドのポジションは天然ガス価格が上昇する可能性を示唆し、FRBの金融政策不透明感が解消する中、2月の高値3.03レベルを上方ブレイクすると、天然ガス価格の上昇トレンド入りが鮮明になり、昨年11月から今年2月にかけての天然ガス価格の値動きに基づいたフィボナッチリトレースメント23.6%水準3.30レベルが視野に入る。
天然ガス価格(NG1)週足チャート

資料:Trading View



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--- DailyFX.com ストラテジスト 木全哲也著