11月米雇用統計と外為市場の展望
【サマリー】
インフレ懸念の後退で米金利の低下トレンドが続く
10月PCEデフレーター(個人消費価格指数)は、前年同月比で6.0%と、前月の6.3%から低下した。同比のコアも5.2%から5.0%へ低下し、消費者物価指数(CPI)だけでなくPCEデフレーターでもインフレの低下傾向が確認された。
インフレ懸念の後退は連邦準備制度理事会(FRB)の大幅利上げの可能性を後退させ、米金利の低下トレンドを促している。
金融政策の方向性を織り込んで動く2年債利回りは4.7%台から4.2%台まで低下している。5年債利回りと10年債利回りも低下のトレンドにある。
米金利のチャート
チャート:Bloomberg L.P. / 30分足(11月30日以降)



加速する米ドル安 ドルインデックスは200日線を下方ブレイク
米金利のトレンド転換は、外為市場で米ドル安のトレンドを促している。
この点について、米ドル相場のトレンドを示すドルインデックス(DXY)の動向で確認すると、200日線(MA)を大陰線で難なく下方ブレイクしている。
ドルインデックスのチャート
チャート:Trading View 日足(年初来)
また、米金利の低下圧力が高まり始めた11月以降の米ドル相場の対主要国通貨でのパフォーマンスを確認すると、米ドル相場が全面安となっていることがわかる。
特に米金利と高い相関関係にあるドル円(USDJPY)は9%安と、主要通貨の中で最も下落率が大きい(ドルインデックスの下落率は6%)。
これらの動向は、米ドル相場にとって米金利のトレンド転換(上昇→低下)の影響力がいかに大きいかを物語っている。
米ドル相場のパフォーマンス:2022年11月以降
データ:Bloomberg L.P. / 基準日:2022年10月31日 / DXY:ドルインデックス
11月米雇用統計と外為市場の展望
今日の注目材料は、11月の米雇用統計である。
インフレがテーマであることを考えるならば、賃金(平均時給)の伸びが焦点となろう。市場予想は前年比で4.6%増と、前月の4.7%増から低下する見通しとなっている。インフレ指標に加えて賃金でも低下のトレンドが確認される場合は、投資家が抱くインフレ懸念をさらに後退させる要因となる。よってこのケースでは、「米金利の低下→米ドル安」の展開が予想される。
賃金の伸びの抑制に加えて、非農業部門雇用者数変化が予想(20.0万人)以下となる一方、失業率が予想(3.7%)以上となれば、景気後退のリスクも意識されることで米金利の低下幅が拡大することが予想される。このケースでは、米ドル安の圧力が最も高まるだろう。
一方、上で述べた状況とは真逆の展開―賃金と非農業部門雇用者数変化が予想以上の強さを見せ、失業率が横ばい以下となる場合は、「米金利の反発→米ドルの買い戻し(ショートカバー)」を想定しておきたい。
また、“強い米雇用統計”は株安の要因でもある。ゆえに強い米雇用統計では「米株安→リスク性の高い通貨の売り→米ドル買い」の圧力も合わさることで、短期間で進行した米ドル安が急速に巻き戻される展開-「不意打ちの米ドル高」となる可能性がある。
米雇用統計の動向
データとチャート:米労働省 / Bloomberg L.P. / 月次(2021年以降)/ 平均時給は前年比
変動 | ロング | ショート | 建玉 |
日次 | -3% | 11% | 5% |
週次 | 0% | 7% | 4% |
ドル円とユーロ円のチャートポイント
ドル円(USDJPY)
米金利のトレンドに影響を受けているドル円(USDJPY)は、引き続き下値トライを意識したい。
上で述べた11月米雇用統計が総じて予想以下となる場合は、「米金利の低下→米ドル安の進行→ドル円の下落」を予想する。
日足チャートを確認すると、ドル円はすでにフィボナッチ・リトレースメント76.4%の水準をもブレイクする展開となっている。この状況でさえない米雇用統計となる場合は、今年に入って一度も下抜ける局面が見られない200日線(MA/134.52レベル)をも下抜ける展開が予想される。
実際にドル円が200日線を下方ブレイクする場合、次の焦点はレジスタンスからサポートポイントへの転換が確認されている131.50レベルのトライおよびブレイクとなろう。このチャートポイントが相場のサポートに失敗する場合は、130円台の維持が焦点として浮上しよう。
ドル円の130.40レベル(8月2日安値)の下方ブレイクは、130.00トライのシグナルと想定しておきたい。
一方、強い雇用統計は米ドルの買い戻し(ショートカバー)の要因となり得る。このケースでは、ドル円の反発を予想する。
目先は、今日の東京時間10時前の戻り高値135.60レベルの突破が焦点となろう。この水準を上方ブレイクする場合は、136円台への再上昇が焦点となろう。
ドル円のチャート
チャート:Trading View 日足(年初来)
変動 | ロング | ショート | 建玉 |
日次 | 6% | 8% | 7% |
週次 | 23% | -4% | 3% |
ユーロ円(EURJPY)
ドル円の動きに連動しているユーロ円(EURJPY)は、デイリーFXの分析記事で指摘したとおり下落トレンドを形成している。
昨日は89日線(EMA/142.75レベル)とフィボナッチ・リトレースメント38.2%の水準142.67レベルを一気に下方ブレイクした。これらのテクニカルポイントを下方ブレイクした後の戻りが限定的だったことも考えるならば、ドル円と同じくユーロ円もさらなる下落幅の拡大を警戒すべき局面にある。
ユーロ円が142.00レベルを完全に下方ブレイクする場合は、8月安値と10月高値の半値戻しの水準140.90レベルのトライおよびブレイクが焦点となろう。この水準は9月30日と10月10~11日に相場をサポートした経緯がある。
ユーロ円が140.90レベルの維持に失敗する場合は、さらなる下落幅の拡大を警戒したい。このケースでは3月安値と10月高値のフィボナッチ・リトレースメント38.2%の水準139.23レベルのトライおよびブレイクとなるか?この点に注目したい。現在このテクニカルポイントには、200日線(MA/139.15レベル)が推移している。
一方、ユーロ円が反発する局面では、上で述べた89日線の攻防に注目したい。この移動平均線で戻りが止められるならば地合いの弱さが意識され、来週以降もユーロ円の下落トレンドを警戒する状況が続くだろう。
ユーロ円のチャート
チャート:Trading View 日足(今年3月以降)