※2023年5月15日9時49分更新。
米国債務上限問題、米ドル円、円高リスク―トーキングポイント
- 米国債務上限問題に対する懸念は高まっていない
- 懸念が高まった際は、米ドル円は130円へ円高進行リスク
- 2011年ほどの円高リスクは限定的



米国債務上限問題は円高要因
金融市場は、日米欧の中央銀行(日本銀行、FRB、ECB)が今後異なる金融政策取っていくことを見込んでいる。日本銀行は当面の金融緩和維持、FRBは利上げ停止、ECBは利上げ継続である。4月から5月初めの日米欧の金融政策決定会合を経て、先行きの金融政策に対する不透明感が晴れつつある一方、米国にて債務上限問題に対する懸念が高まりつつある。米国議会が債務上限引き上げ、もしくは上限の適用を停止しなければ、6月~8月に米国が債務不履行(デフォルト)に陥る恐れがある。イエレン米財務長官は6月1日にも米国が債務上限に達する可能性があると警告している。最終的には債務上限引き上げで議会は合意すると見られるものの、合意するまでは米国の信用力に対する懸念が高まり、金融市場の変動要因となる可能性がある。2011年に米国で債務上限問題に対する懸念が高まった際は、リスク回避的な動きが高まり、米ドル安円高が進行した。
2011年米国債務上限問題時の米ドル円の動き

資料:Trading View
ドル円為替市場では債務問題に対する警戒感が低い
為替オプション市場から算出される米ドル円の予想変動率(インプライドボラティリティ)を確認する。植田日銀総裁のもとでの初の金融政策決定会合を経て、日本銀行が当面金融緩和を継続するとの思惑から、米ドル円が大きく動くことは見込まれていない。

資料:BloombergよりDailyFX.comが作成。
また、同様に投資家が円安・円高どちらに対して警戒感を持っているかを示すドル円リスクリバーサルを確認すると、日銀会合前は一時円高警戒感が高まっていた。しかしながら、当面の金融緩和を示唆する結果であったことから、円高警戒感が解消されている。金融市場ではドル円の大きな変動や円高に対する警戒感が高まっていない。米国議会の野党共和党が過半数の議席を下院で得て、「ねじれ議会」が生じていることに加え、来年の米国大統領選挙を見据え、与野党間での駆け引きに伴い債務上限引き上げの議会合意は難航することを見込む。金融市場では円高やドル円変動に対する警戒感が高まっていないからこそ、債務上限の期限が近付くにつれ、金融市場のリスク回避的な動きが鮮明になり、2011年のように一時的に円高が進行するリスクがある。

資料:BloombergよりDailyFX.comが作成。
債務問題に対する懸念が高まった際の円高の目処



2011年の債務上限時は5%近く円高が進行したものの、①当時と比べ日本の貿易収支は悪化(円安要因)していることに加え、②日銀の当面の金融緩和維持が見込まれることから、2011年ほどの円高進行リスクは限定的と考える。債務上限問題に対する懸念が高まった際には、水平レジスタンスであり心理的節目である130円ちょうどまで一時的に円高が進行する可能性がある。
米ドル円日足チャート

資料:Trading View
-- DailyFX.com ストラテジスト 木全哲也著